スクリャービンの歴史的録音 - www.78rpm.net

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Great Pianists of the past

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Sofronitsky and composer's daughter
Sofronitsky & his wife
(Scriabin's daughter)


Mark Hambourg
Mark Hambourg
(1879-1960)


Scriabin CD
Scriabine et les Scriabiniens, A.Scriabin, A.Goldenweiser, S.Feinberg, H.Neuhaus, V.Sofronitsky
[LDC 288 032]
自作自演ロールは雰囲気があって断然良い。


Scriabin Piano Rolls
Alexander Scriabin
The Composer as Pianist
[Pierian 0018]

高校生の頃、Etude,Op.8-12に熱中し、近所迷惑省みず家のピアノをガンガン鳴らしていた。そのドラマティックな曲想に心を奪われつつ、平凡な人生を送るくらいなら死んだほうがマしだ!と幼心に決心していた。が、このテイタラクはどうだろう...


スクリャービン自伝ピアノ・レコード収集に深くハマって行くキッカケともなった「ショパン・ディスコロジー」の著者・佐藤泰一氏の翻訳によるフォービン・バウアーズ著「アレクサンドル・スクリャービン」(泰流社刊)の巻末、クリストファ・N・野澤氏と共にスクリャービンのディスコグラフィ製作の協力をした事があった。スクリャービンの78rpmは約40名のピアニストによるものが判明しているすべてであるが、その中から特に印象的で、あまり知られていないレコードについて記してみたい。

AC録音を残しているのは Alfred Cortot (1877-1962)、Benno Moiseiwitsch (1890-1963)、Mark Hambourg (1879-1960) 、Alexander Sienkiewicz( ? ) の4名だ。中でも Mark Hambourg の「練習曲Op.8-1」の録音は意外と知られていない。レシェティツキの弟子でロシア出身のハンブルグは、テンペラメントにテンペラメントを重ねるようなその激しい演奏スタイルから、師匠に「私の知っている中で最もアントン・ルビンステインに似ている」と言わしめたピアニストだ。このレコードは作曲者が存命中かどうか微妙な時期に録音されており、どちらにしろ当時を伺い知る上で貴重な演奏である。彼の晩年のレコードの中には首を傾げざるを得ないようなものも有るが、どんな曲を弾いてもレシェティツキ派の美音で情熱を吹き込む特徴はここでも聴いて取る事が出来る。
ポーランド生まれの Alexander Sienkiewicz のレコードはかなり変わり種で、聞き伝えによると日本のレコード愛好クラブの依頼でドイツ・ポリドールに録音させた物らしい。ピーコックグリーン地に朱色と黄色の鮮やかな紙レーベルの12インチ三枚組にソナタ「第9番」と「第10番」(DIW Classics DCL-1002収録)が残されている。当時の進歩的なピアノ音楽ファンがこのレコードを歓待し、新しい音楽に耳を傾けた事を想像すると何やら愉しい気分にさせられる。

電気になってからは多数の録音が残されており、その演奏スタイルも楽曲の定着とともに多様化している。経歴不祥のピアニスト Gregoire Gourevitch の仏Pathéに残した「練習曲Op.8-2, 7, 12」「練習曲Op.42-5(DIW Classics DCL-1002収録)」「前奏曲Op.11-14, 20」は、いずれも1920年後半から1930年代に録音されている。極端に少ないペダリングが印象的で「Op.8-12」や「Op.42-5」のように有名なエチュードに於ても、そのスタイルが強烈な個性となって忘れ難い演奏となっている。Gourevitch は当時、恐らく本格的なピアニストであったはずだが、文献を紐解いても一度もその名前に遭遇した事がないのは不可解としか言い様がない。このピアニストについて何かご存知の方がいらっしゃったらご一報頂けると幸いである。

初期スクリャービンの作品中、「練習曲Op.8-12」は特にドラマティックな名曲で、作曲者本人やその娘婿にもなった伝説のスクリャービン弾き Vladimir Sofronitsky (1902-1961) 、作曲者の前で演奏した経験のある Vladimir Horowitz と、愛奏したピアニストは少なくない。前出 Cortot のAC録音や、作曲者自作自演の素晴らしいピアノ・ロールに始まり、最も多くのレコードが残されている。

Rosa Etkin plays Scriabinあまり知られていない早逝の女流ピアニスト Rosa Etkin (1908-1945) による独Tri-Ergon盤は、レコード史上最も感動的で奇跡的な一枚に属する。ポーランドのミハウォスキ派出身で、後に Moriz Meyer-Mahr (1869-1947) にも教えを受けた彼女の名前は、第一回ショパン・コンクール第三位入賞者として記憶されるに留まるべきでは無い。6歳でラフマニノフの「ピアノ協奏曲第三番」をオーケストラと共演し、1920年にはワルシャワでステージ・キャリアをスタートさせた彼女は、パガニーニ=リストの練習曲、メンデルスゾーン=リスト「結婚行進曲」、バッハ=ブゾーニ「シャコンヌ」などヴィルトゥオーゾ的なレパートリーで耳の肥えた聴衆を席巻したが残されたレコードは極めて少ない。ショパン「夜想曲Op.15-2」「マズルカOp.50-3」「ワルツOp.42」や、同郷人作曲家 Ludomir Rozycki 「Polinische Tanz」など珍しいものもあるが、ラヴェル「水の戯れ」で見せる目も眩みそうな19世紀的ブラヴーラは忘れがたい印象を残す。

詳細は分からないが、Tri-Ergonは珍しい録音方法を採用していたらしい。その所為か音は少々割れ気味で聴きづらいが、偶然にもスクリャービン「練習曲Op.8-2 & 12(DIW Classics DCL-1002収録)」のレコードに於てはその迫力と悲愴感をより一層増す結果となっている。これも神様の思し召しと思ってしまうのは、彼女の悲劇的な死の記憶と結びついている。これらのレコードを録音してから数年後、ナチスが投げ込んだ手榴弾は、30代の天才ピアニストの命を無情にも奪い去った。




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