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ピアノの歴史的録音を取り巻くさまざまな雑記です。

もっと良い音!SPレコードのカートリッジ再生①替針沼へようこそ

カートリッジ沼のほとりで

カートリッジは入門モデルから高級ハイエンドモデルまで、かなりの価格幅があります。
ただ、ハイファイなピュアオーディオから程遠いノイズと傷まみれのSPレコード再生に於いては、高価で繊細なモデルは必要ありません。ハイエンドといってもEMTやortofon辺り止まりです。どちらにしろ78rpm用替針のあるカートリッジはそれ程無いので、手に入るだけ全て試してみても良いと思います。

SONOVOXやDENON102SDなどは、STANTONやナガオカと大分キャラクターの違うサウンドなので、揃えておきたいところです。

ShureのMMカートリッジにも78rpm専用の替針があるモデルも割とあるので手軽に導入出来ます。

入門編で取り上げたオーディオテクニカは、現行品に至るまで長きにわたって78rpm針の供給を続けてくれているありがたいメーカーです。廃番モデルですが、モノラルカートリッジのAT-3Mに78rpm用の替針の組み合わせには定評があります。

先ずは上流から極める

レコード再生は、レコード盤の溝をカートリッジの針先で拾う所から始まります。スタート地点でのクオリティが、最終段であるスピーカーからの出音をなかなかの割合で決めてしまいます。良い音を追求するなら、やはりカートリッジのグレードアップの検討が必要になってくる訳ですが、もっと重要なのは実は「針先」なのです。

グレードアップは針先から!

SPレコードは壮大なノイズとナローレンジか大前提。繊細な高性能MCカートリッジを使うと、むしろ微小なノイズ成分まで拾ってしまうことになり得る訳ですから逆効果。
それよりも盤質が悪くとも逞しくトレースしてくれるカートリッジの方が効果的です。

DJギアとして有名になったSTANTONのMMカートリッジ(2枚の写真はどちらもSTANTON 500シリーズのもの)は、タフなレコード再生と相性の良いカートリッジです。海外ではこのスタントン500シリーズの替針バリエーションが一番多くありましたが、現在では2.75milか3.0mil以外の入手は困難となってしまいました。これは非常に残念なことです。

こんなにあるのか!針先の種類

Sakuraphon Studio では、STANTON500シリーズの替針は下記を常用しています。

  • 0.7mil x 2(STEREO LP、MONO LP)
  • 1.0mil(MONO LP初期盤、Micro Groove 78rpm盤, )
  • 2.0mil TE x2(Micro Groove 78rpm盤, Berliner盤)
  • 2.0mil T(Micro Groove 78rpm盤, Berliner盤)
  • 2.2mil E(Micro Groove 78rpm盤, アセテート盤)
  • 2.25mil T (acoustic盤、電気録音 78rpm盤、アセテート盤)
  • 2.3mil TE (電気録音 78rpm盤)
  • 2.5mil CT (acoustic盤、電気録音 78rpm盤)
  • 2.75mil x 3 (acoustic盤、電気録音 78rpm盤)ー 最も汎用性が高い
  • 2.8mil TE x 2 (電気録音 78rpm盤)ー サーフィスノイズの多いプレスに
  • 3.0mil x 3(acoustic盤、電気録音 78rpm盤、エジソン縦振動)ー 汎用性が高い
  • 3.0mil TE(電気録音 78rpm盤)ー サーフィスノイズの多いプレスに
  • 3.25mil TE(電気録音 78rpm盤)ー サーフィスノイズの多いプレスに
  • 3.30mil E(電気録音 78rpm盤)
  • 3.5mil C(acoustic盤、電気録音 78rpm盤、Pathé縦振動盤)ー 溝荒れ盤に有効
  • 4.7mil C(Pathé縦振動盤、米Paraclate 78rpm盤など)ー 溝荒れ盤にも有効
  • 8.0mil C(Pathé縦振動盤)ー 溝の浅い縦振動に。横滑りしやすい

針の太さの後に付いているサフィックス記号は、針先のカットの形状の種類です。これも実は、同じ太さでも再生結果を大きく左右する要素です。()内の適合盤は目安ですので、これに当てはまらない場合も多いと思います。

針先の太さが0.25mil刻み、針先のカットが数種類のバリエーションが揃うのは、非常にありがたいことです。
しかし、これもメーカー純正ではなく職人さんによるカスタムメイドで供給されていました。その分、カートリッジ本体の数倍のコストがかかるのでなかなかハードルが高い上に、同じモデルでも出来不出来のバラつきが激しいです。また、カンチレバーの長さや硬さもまちまちで、当たり外れを覚悟しないと手を出しずらいと思います。その結果、同じ針先スペックでも幾つも所有しいるものもあり、それぞれの癖を掴んで使い分けていくことになります。

また、STANTON500シリーズ以外のMMカートリッジでも、数種類の替針が手に入ります。中でもナガオカのカートリッジであるMP110シリーズは、針先のカットは一種類のみですが0.5mil刻みで2.5mil~4.5milの太さの替針がまだ供給されていると思います。ナガオカの替針はさすがに製品のばらつきもなくコストも程よく、安心して使用できるところが素晴らしいと思います。特徴としては、STANTONよりもカンチレバーが長めで良くしなるので、盤質の良いレコードに軽針圧の設定が良いでしょう。

替針環境の復活を!

さて駆け足で書き飛ばしてきましたが、一番伝えたいことは「もっとSPレコードの替針を!」と、いうことに尽きます。
レコードから良い再生音を得るには、兎に角ベストマッチの針先が必要不可欠なのです。
需要と供給でコストの問題、大人の事情はよくわかるのですけど、ホラ、そこはもともと趣味の世界ですから、クレイジーに追求してくれるとサイコーなのです。
なんなら、針先バリエーションを増やす会を結成したい位の思い。そういう人、ぜひ友達になりましょう。なんのこっちゃ。
次回はアームやらケーブルやら、その時気になるトピックを書かせていただきます。
不景気で不穏な世の中でございますが、良いレコードを聴いてどうぞご自愛下さいませ。

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